赤岡簡易裁判所 昭和46年(ろ)6号 判決 1971年4月20日
主文
本件公訴はこれを棄却する。
理由
本件公訴事実は、「被告人は、法定の除外事由がないのに昭和四五年九月一三日午後二時五五分ころ香美郡赤岡町四六三番地先交差点に普通貨物自動車を約一〇分間駐車したものである。」とするものであつて、道路交通法一三〇条の受領拒否を理由として同法一二五条以下の告知、通告を経ることなく公訴提起されたものであるところ、被告人の当公廷における供述、ならびに宮内慎一の検察官事務取扱検察事務官に対する供述調書によれば、公訴事実記載の日時場所において、右反則行為を認知した警察官が反則切符、反則金納入告知書を被告人に交付しようとしたところ被告人は、同警察官が顔見知りであり被告人の住所もよく知つており、且自己が多忙であつたため後に自己住所に届けてくれるだろうと考え、そのまま現場より退去したため書面の交付ができず、これにより直ちに検察官に送致されたという事実が認められる。
よつて、本件が道路交通法一三〇条二号に当るかどうかについて判断するのに、同条の受領を拒むというのは、反則者が同法の反則制度により処理されることの利益を放棄する意思を表明することであつて、本件被告人のように右要素を欠き、単に現場において書面を受領しなかつたというにすぎない場合は、これに該当しないと解するのが相当である。すなわち、反則者といえども、反則制度による処理を選ぶか、または直接公訴提起されるのをまつて早急に裁判を受けるかの選択の自由を有する。しかして右決断は、検挙現場において即時強要されるものではない。故に、同条の受領拒否は、反則者の右意思が明白に認められる場合は別として、必ずしも即時現場で決せられるべきものでなく、その後に反則者が受領の意思を表明したときは告知されるべきものであり、あるいは、反則者の受領拒絶の意思を確認して検察官に送致すべきものである。しかして、かりに本件被告人のそれが警察官に対するいやがらせとしても、単に現場での書面の交付ができなかつたというに止まるかぎり、前記理由に照らすときは、いまだこれをもつて直ちに同条の受領拒否に当ると解することはできないのである。
そうだとすれば、前記経過のもとに公訴提起された本件は、道路交通法一三〇条に違反し、無効というべきであるから刑事訴訟法三三八条に従い、公訴棄却すべきものである。
よつて主文のとおり判決する。
(小山高)